星に願いを?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


繁華街や商店街やのディスプレイにも、
ようやっと ささやかながらも華やかさが戻って来。
最近は前倒しが当たり前のバーゲンの赤い文字が、
短冊や色紙細工を吊るした笹飾りの陰にお目見えしだした、
七月上旬ではあったが。

  学生さんにはその前に、夏休み前の一大関門が待ち受けており

古風な鐘の音がキンコンカンコンと鳴り響き、
それと同時に
“あ〜ん”と溜め息混じりの悲鳴が聞こえるところは、
他のガッコとも大差無かろう、
毎度お馴染み、三人娘の通う女学園でございまし。
がたたと椅子を引く音にかぶさって、
わさぱさと紙を集める音が
あちこちの教室から同じように聞こえており、

 「最後の問題は〜〜でしょ?」
 「え〜、そうだったの?」
 「わたくし、
  塩基還元の化学式しか覚えていなかったので、前半は…。」
 「そうそう。
  酸化のほうは
  試験範囲に入ってなかったと思ったものですから。」

夏休みに入る前のお約束、
一学期の総まとめという期末試験が 只今絶賛開催中であるらしく。
こちらの教室ではどうやら化学の時間だったものか、
大半のお嬢様がたが、
しょっぱそうなお顔になって
教科書を広げての答え合わせをなさっておいで。
今更何を言ったって始まらないのは判っているが、
此処まで出てたのにという代物が、結局判らないままになるのは、
寝覚めにも悪いという、
いい意味での悪あがきなのでごめんあそばせと。
反省のお声で、ひぇ〜きゃ〜と ひとしきり賑やかなそんな中、

 「…………。」

静かに次の試験科目らしい現代国語の教科書へ、
凛とした視線を落としておいでの寡黙なお嬢様がお一人、
窓辺の席に ひそりとついておいで。
今の時期の陽射しは、強いが高さもあるものだから。
昼も間近なこの時間帯は、室内へまで差し込むことはなく。
窓辺とその外側だけを目映い白に染める夏の陽が、
内側の暗さとの拮抗も大きいまま、
そこに佇む少女の横顔、
けぶるような金の綿毛のディティールまでもを
切り絵のようにくっきり浮かび上がらせて見せており。

 「…久蔵殿、サンショウウオの心理は結局判ったんですか?」
 「〜〜〜〜。(否、否)////////」

ん〜んと素直にかぶりを振ったのは、
凛々しくも毅然とした立ち居振る舞いが、
クールビューティと呼ぶにふさわしいとばかり、
下級生たちからの人気沸騰中、
紅ばら様こと三木さんチの久蔵お嬢様であり。
その細い肩へと柔らかい両手を気安く置いたは、
こちらは上級生から
親愛を込めて“ひなげしさん”と呼ばれておいでの、
愛らしい笑顔が暖かい、
林田平八というクラスメートの仲よしさんで。
そして、

 「あら。それじゃあ一体、
  何へと物想いをお寄せだったのかしらね。」

今は試験期間中なのでと、机と机の間を空けているけれど、
そうでない頃はすぐお隣りの席だった、
やはり金の髪した色白の美少女、
白百合さんこと、草野さんチの七郎次さんが。
手のひらについてしまった鉛筆の跡、
淡色のハンカチで丁寧に擦り落としながら訊いて差し上げれば、

 「〜〜〜〜。(……)/////////」
 「あらあら、黙んまりなんてズルいでしょうに。」

愛らしいことをなさってもうと、
青玻璃の目許を甘くたわめ、
ほほと軽やかに微笑った七郎次さんだったけれど。

 “さっきの“〜〜〜〜”と
  どう違うから黙んまりなんだろか。”

肩をすくめてちょっぴり含羞みの様子になったところまでは、
何とか平八にも拾えたものの、
その先はさすがに区別がつかずで。
七郎次の久蔵へのお見込みの深さとやら、
あらためて思い知らされたのは、まま 今は置いとくとして。

 「沈思黙考、考え込んでらしたのは私にも判りましたが。」

教科書を開いていたのは、さては、
心ここに在らずなのを誤魔化すカモフラージュだったのですねと。
こちらさんは紅玻璃の双眸からそそがれていた視線の先、
あらためてのぞき込んだ平八だったが、

 「………あら。」

そういや、単行本や文庫本じゃあるまいに、
何でまた きちんと、
(しおり)なんか挟んでるんだろかと思った“それ”こそ、

 「もしかして久蔵殿、
  現代国語の予習より、
  こっちを優先して…考えあぐねてらしたとか?」

平八の小さな手の、
編み物やお裁縫は苦手だが、
おむすびや白玉粉練りは得意な指先が、
やや遠慮気味にちょんちょんとつついたのが。
愛らしいリボンつきなので間違えるのも無理はない、
栞じゃあなくの、

 「………明日の七夕に、笹へ下げる短冊、ですよね?」
 「〜〜〜〜。///////////」

え? そうだったの?と、
今の今まで気づかなかったらしい七郎次へも、
おいおい おいおい…と少々呆れた平八で。

 「だって、教科書への栞にこうまで大きいのが要りますか。」

わたしなんて“ドッグイヤー”ってやつで、
ページの角っこ折って終しまいですものと。
それもまた、ホントのところは褒められたことじゃあないお行儀へ、
自慢の胸をえっへんと張って見せるひなげしさんだったりし。

 「自慢のは余計です…っ。////////」

あ、ごめんごめん。
(苦笑)
それはともかくとして、

 「そっか、七夕かぁ。」

短冊だとしたら、まだ何も書かれてはない白地のそれを、
久蔵へ目配せの会釈をしてから手に取った白百合さん。

 「今年は試験も早くに終わるから、
  余裕で飾り付け出来るなぁって踏んではいましたが。」

でもでも、準備は全然でしたと苦笑する七郎次の傍らから、

 「ウチは商売柄とっくに飾っておりましたが。」

八百萬屋の看板娘として、そんな風に前置いてから、

 「でもでも、
  さすがに自分の願い事の短冊は、
  まだ下げてませんでしたね。」

ひなげしさんもまた、
肩をすくめてお友達の手元の短冊を覗き込む。

  だって、今の今そういうことを考えたなら、
  きっとの恐らくは、
  数学とか英語の点数が取れますようにとか、
  随分とつや消しなことを思ってしまいそうで。

  あ、それってあるかも知れない。

 「数学の試験範囲なんて、
  シスター・ベラのお広いお心と同じほどあったものね。」
 「言えてる〜。」
 「……。」
 「久蔵殿は古文のせんせえの、
  深いお心と以下同文に泣かされたんですって?」
 「……。(頷)/////////」

相も変わらず、
大変な難儀や困りごとへだってのに、
それはそれは軽やかに“あーでもないこーでもない”と
取り沙汰出来ちゃう、それは無邪気な子ヒバリさんたち。
ともあれ、今日はその試験もいよいよの最終日なので、
帰りに八百萬屋でお疲れ様の打ち上げしましょ、
そこで短冊も書けばいいと、
にっこり微笑み合ったお嬢さんたち。
それぞれのお宅の笹かざりへも託すつもりの3枚分を、
ちゃっかり想定しておいでなところが、
あんまりロマンチックとはいえない
腹積もりだったりするのだけれど。
自分のお家の笹にだけは、
いくら仲良しでも…何となくバレバレであっても、
それでも見せらんないのを提げるつもりなところもお揃いの、
夢見るヲトメにしてみれば。
オオサンショウウオが窮屈なところで何を思うかなんてことより、
明日の晩のお天気の方が、よほどのこと気になるようで。

  てるてる坊主を作らないと、

  いやさ、今からでも間に合いそうな、
  きっと晴れてるだろう北海道のお友達のところへですね。

  飛行機チャータして(足を延ばして)。

  そっか、
  そこで笹立ててお祈りするってワケですね?

さすがは財閥の令嬢たちに天才工学博士の孫娘様で。
皆既月食の観測でしょか…なんてな、
一足飛びもはなはだしい計画をこそ、楽しげに考案中だったりする、
女学園の名物、お花畑三人娘なのでした。


 「さぁさ席についてくださいませよ、皆さん。」

  「きゃあ、いけないっ!」
  「シスター・アメリア、お待ちになってっ。」
  「わたくし、まだ心の準備がっ!」


  いろいろお楽しみの夏休みは すぐそこです……vv





   〜Fine〜  11.07.06.


  *あんなに暑くて恨めしかった陽射しが、
   するするするっと梅雨前線と入れ替わるとは、
   どこまで意地の悪いお天気なんだか。
   せめて晴れてるところでは、
   織姫と彦星の1年振りの再会が
   叶いますようにと祈ってあげてくださいませね?

   「1年に一度しか逢えないなんて酷いよねぇ。」
   「もういい大人なんだから、
    自力で何とか出来ないもんなのかしら。」
   「いっそ逢ったそのまま…。」

   やだ、駆け落ちですかっ!?
   久蔵殿ったら過激なことをっ!
   ???

   「でも判りますわ、歯痒いんですものね。」
   「逢おうと思や、いつでも顔を見にゆける私らなんて
    とっても恵まれておりますよね。」
   「……。(頷、頷)/////////」

   でもね、
   あのおヒゲの壮年と
   駆け落ちするようなら連絡くださいませね?

   ……。(頷、頷)

   なんでアタシへ、
   真っ先にそんな助言をくれますかね、二人とも。


    ……………やってなさい。(キリがないったら・苦笑)

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